新型コロナウイルスは2020年1月に日本に上陸して以来、あらゆる分野に甚大な災厄をもたらした。
1.リモート企画のマラソン大会の登場
マラソン大会の多くが開催されず、2020年の1〜4月に私が出場予定だった大会はすべて中止! 出場権が同種の別の大会に引き継がれたものもあったが、自身の体調不良で棄権した。その前に、1日半ほど発熱と未経験の脱力感に見舞われて、これが新型コロナか!と思ったが抗体検査をしたわけでもなく、真相は不明。走る意欲が希薄となった上に、熱中症が懸念される酷暑の夏となって、走らない日々が続いた。半年間もまともに走らないのは、市民ランナー歴28年目にして初めてのことである。
マラソン大会の主催者の方でも色々と知恵を絞ったようで、オンラインマラソンなるリモートのマラソン大会が企画されるようになった。最初に知ったのが、「第32回袋井クラウンメロンマラソンリモートチャレンジ」である。開催期間が2020年の9月27日〜10月10日で、この2週間内に42.195キロ以上を走れば完走となる。静岡県の袋井まで出かける必要はなく、期間内であれば、好きな時間に、好きな場所を走ればよいという常識外れの画期的な企画であって、 大会要綱には参加条件として次の3つが示されている。
・日本国内にお住まいで、開催期間内に完走できる方
・お持ちのスマートフォンにGPSトレーニングアプリ「TATTA」がダウンロードできる方
・新型コロナウイルスへの対応状況をふまえ、それぞれの地域で、安全、安心して走る事ができるタイミングと環境で走ること
もちろん、ちゃんと距離を走ったという証拠が必要であり、そのためにスマホのGPS機能利用のTATTAというアプリを用いて走行距離を計測する。3項目目の「安全、安心して走る事ができるタイミングと環境で走ること」の重要性は、後述の「4. 大失態のスマホマラソン」と関係する。
2.オンラインマラソン初体験
参加できるマラソン大会がなくダラダラと過ごしていた私にとっては、このバーチャルな大会が、再び走り始めるための格好の動機付けとなった。参加費は例年の半分以下の2500円で、これが安いか高いかは各人の考え方次第であろうが、私にとっては文句なしに新しい光明であった。
フルマラソンは50歳の初マラソン以来計12回完走を果たしているが、「人生最後のフルマラソン」と心に決めた71歳の淀川寛平マラソン以後はハーフマラソンより長い距離は走っていない(*1)。何回かに分けて走ってもよいとのことながら、年不相応のプライドが出てきて、走るならやはり1回で42.2キロを目指すことにした。別に制限時間があるわけでもないし、大会は2ヵ月近く先のことなので、それまでの長いブランクも大して気にはしなかった。最後のマラソンこそ5時間20分かかっているが、67歳までに走った11回のフルマラソンはすべて5時間以内で完走している。後期高齢者の現在、無理は禁物と大事をとって7時間以内のゴールを目標と定めた。7時間にはそれなりの根拠があって、49歳の春に「名古屋国際女子マラソンのコースを歩く会」で松野明美選手らと同じ日に同じコースを7時間で歩き切った経験がある(*2)。30年近く前のことながら走らずに7時間で歩けたのだから、走ればそれよりかなり早いゴールが期待できる筈・・・と十二分に余裕を持った目標設定のつもりであった。
実際に練習を始めてみると、なまった体に例年にない猛暑は想定をはるかに超えて厳しいという現実に直面! 走っている私の横を、日傘をさして歩く女性がスーッと追い越していく・・・すなわち40年ほど前に7時間で歩いた時の時速6キロよりかなり遅いという有様である。なんとか徐々に距離を伸ばしてはいったが、まだ42キロに届かないうちに、大会の開催期間となってしまった。
コース設定は自前なので、出発とゴールは枚方市の自宅付近とし、大会の本番や練習でもよく走った淀川の河川敷をメインとする42.2キロとした。走行計測アプリは、移動速度がある程度遅くなると自動的に測定が一時中断される設定になっているので、信号待ち等でストップしたり、コンビニで飲み物を買って飲んでいても、走行時間にカウントされない。しかし、可能な限り実際の大会を想定したスタイルで走ることを心がけた。 ともかく大会の期間も終わりに近づいたので、10月上旬とも思えぬ暑い日であったが思い切って実行! 結果は7時間を13分オーバーして、文字通りに走るのが歩くより遅い6年半ぶりのフルマラソンであった。初体験のオンラインマラソンはそれなりの感慨を残し、終始一人で走り続けた後は、「マラソンは、参加者全員が勝者になれる稀有なスポーツ!」という言葉が思い出された。
3.参加の景品や完走動画
市民ランナーが集まって走る大会がほとんど開催されない中、各地(?)でオンラインマラソンが催されるところとなった。出走条件もさまざまであるが、何日かの走行距離を足し合わせるのはダメとか、開催日が指定されていて走れるのはその1日だけとか、本来なら当たり前の制限がある大会は稀である。旅館の予約も不要で日程に自由度もあって、さほど深く考えることもなく、ついつい上記のフルマラソンを皮切りに4つのハーフマラソンにも参加申し込みを行なってしまった。
もともと種々のマラソン大会はそれぞれに工夫を凝らして参加者を募っているが、リモート企画の大会では全国の参加者の興味を引くユニークな参加賞などが目を引く。「袋井クラウンメロンマラソン」ではメロンがもらえる抽選は外れたが、小野市の「Ring of Redマラソン」からはハムやベーコン、ウインナーなど「シャウエッセン詰め合わせ」なる抽選当選賞品が届いた。
リモート参加ならではの斬新なサービスが、各人の「完走動画」なるものの無料作成である。普通の大会では、主催者が契約したカメラマンが沿道から撮影したランニング写真(*3)を購入するが、各自が勝手に走るオンラインマラソンでは勿論それはあり得ない。家族や友人に撮ってもらった写真データを送ると、大会のコースの風景の中にそれらの写真や計測データを組み入れた動画を無料で作成してくれるという次第である。私がエントリーした5つの大会のうちの3つでその完走動画サービスが用意されていた(上記のカットは、それぞれの完走動画の一場面)。最初のフルマラソンの完走動画では、名古屋市千種区の公園などで撮影した私の姿が訪れたことのない静岡県袋井市のコース風景の中に登場した。その次の「交野マラソン」は枚方の隣の交野市が舞台であったが、やはり実際に走ったのは枚方市で、私の写真は名古屋市でのランニング姿であった。「和歌山ジャズマラソン」の場合は、かつて長らく住んでいた愛知県豊田市に出向いて撮った写真で、実際にマラソンの練習で何度も走った枝下緑道や梅坪神社を訪れた。いずれもコースの風景と自身のスナップ写真と実際に走ったデータの場所がまったく異なっている。バーチャル大会の動画はまさに捏造の極みであるが、実は当人は結構気に入っている(*4)。
4.大失態のスマホマラソン
初めは戸惑ったオンラインマラソンであるが、5回目ともなればスマホのGPS機能の利用もかなり慣れてきた。年が明けての地元でのひらかたハーフマラソン「新春走ろうかい」は、自宅周辺に走りやすい数キロの周回コースを設定して走ることとした。交通量の多い自動車道を横切ることもない安全、安心のコースの筈である。さて、当日・・・何と後もう少しで21.1キロ達成・・・とスマホでタイムと距離を確認していたら蹴躓いて見事に転倒! 眼鏡は大破し、顔面を強打!! 自宅のすぐ近くだったので、直ちに病院で処置してもらえたのが不幸中の幸ではあったが左頬を数針縫合してもらう大怪我であった。(*5)
大会から届いていた案内やメールには、新型コロナへの感染対策についての注意事項が多く書かれていた。「『走りスマホ』は『歩きスマホ』よりはるかに危険です!」といったスマホ利用についての注意はなかったが、当たり前の常識ではあろう。しかし、この大会では余分に走った距離への補正は行われないので、ゴール相当の距離を走ったことを速やかに確認して計測終了のボタンを押したくなるのは市民ランナーの素直な気持ちである。ともかくも、一応は計測データを送信、後に完走記録証をダウンロードし、自身のホームページの記録集(*1)にはこの無念の記録を含めて5回のオンラインマラソンのデータをアップした。
(*1)⇒「マラソン記録集」 エントリー57 が最後のフルマラソンのつもりだった寛平マラソン
エントリー71#〜75#がオンラインマラソン
(*2)⇒「私の年賀状」1993 に記述あり
(*3)⇒「マラソン写真集」 掲載の写真の大部分はマラソン大会の主催者が契約したスポーツ写真社からのカメラマンの撮影であるが、ごく一部は友人や家族に撮影してもらった写真である。
(*4)下記をクリックすると3つの大会それぞれの完走動画が再生される。データ容量が大きいのでパソコンでの再生がお薦め、左上の斜め矢印をクリックすると全画面モード。
⇒ 完走動画「袋井クラウンメロンマラソン」
⇒ 完走動画「交野マラソン meets ONLINE in Halloween」
⇒ 完走動画「和歌山ジャズマラソン」
(*5)顔の怪我とて、ブラックジャックのようになることも覚悟したが、直ちに傷口を丁寧に水洗いしたこと、直後に病院で処置してもらえたこと、担当医がブラックジャックのように腕が良かったのであろうこと等が幸いして、数ヶ月後には鏡を見ても傷跡がどこか分からないくらいに回復した。