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科学切手の図がちょっと変だよ!
世の中、いくら注意しても、ミスは完全にはなくなりはしない。入試問題のミスや採点のミスは深刻だが、それに比べると科学切手の図のミスは、罪の無い話題提供みたいな面もあってそれなりに楽しめる。デザインを描く芸術家はその科学のテーマの素人で、それをチェックする立場の人もその分野の専門家ではないということが原因であろうが、結構色々なタイプのミスがあるようである。例えば、安部浩司氏の『どアホな奴等(科学切手編)』を参照されたい。
明らかな誤りというよりは、よく注意して見れば変だよな!とか、必ずしもミスとは言い切れないけど一寸おかしいかな!といった風に、つっこめば奥が深そうなのが楽しい。
「緯度観測所創立五十年記念切手」(1949)
この単色グラビアの記念切手に描かれているのは、浮遊天頂儀なるものと経線・緯線である。「午年雑考」の中でも触れたが、経線の数が10本になっている。間隔が36度というのは不自然で、まともなら12本であろう。切手が発行された時、私は小学1年生であったが、郵趣家の間では、この経線の数が話題になったという。
この切手を眺めていると、さらにやや違和感を覚える。例えば、右図で2個の赤丸で示した部分を比べて見ると、手前の方は幅が狭く( <36°)、向こう側は幅が広い( >36°)ように見える。すなわち、経線どうしの間隔が、手前側が狭くて、向こう側の方が広く、遠近法には合ってない。確かに変ではあるが、ミスだ!と言い切れる程の罪深い間違いとは言えないかもしれない。
「Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research 100年」
(オーストラリア、2015)
化学切手同好会のメンバーから、新発行の切手についての種々の情報がメールで送られてくる。その一つがここで取り上げる2015年6月オーストラリア発行の医学研究所100周年記念切手(左図)で、下部にDNAが描かれている。この二重らせんを眺めていると、何か変である。どこが変なのかすぐには分からなかったが、やがて塩基対の描き方がおかしいことに気付く。二重らせん部を拡大してらせん軸が垂直になるようにしたのが中央の図である。右図は、比較のための生化学系の教科書からの引用である。右巻きの二重らせんとして、有り得ない変な箇所を○印で示した。なお、細かいことを言えば、2本のヌクレオチド鎖の間隔も右側のお手本とは感じが違っている。床屋の赤と青の二重らせんは等間隔に配置しているが、DNAでは間隔が一方で広く、もう片方が狭くなっている。それぞれ、主溝、副溝と呼ばれて、約2.2 nm および約1.2 nm である。すなわち、ほぼ2:1に近い筈が、切手の図は3:1に近くなっている。(参照:「理系総合のための生命科学」羊土社、2007)
二重らせんをモチーフにした切手は山ほどあって、その中には、らせんが右巻きではなく誤って左巻きになっているのもある。伊藤良一氏の『化学切手から変わり者切手へ(私の切手遍歴)』にもそのような例が紹介されている。「人によっては右巻きと左巻きの区別が難しいらしい。」とあるが、らせんの向きについては『右らせんと左らせん』を参照されたい。
「キュリー夫人か 否か!」(マリ共和国、2009)
1903年に物理学賞、 1911年に化学賞と二つのノーベル賞を受賞したキュリー夫人の切手は、世界の国々で数多く発行されている。左上は、西アフリカのマリ共和国で発行された小型シートで、切手の部分およびシートの地に描かれている女性はともに Marie Curie 氏と誰しも思うことであろう。フラスコを手にしているのは、自分が作った演劇「Manya—The Living Histry of Marie Curie」の一人舞台で Marie Curie 役を演じる米国人 Susan Marie Frontczak 氏(右上の写真)である。言わば、坂本龍馬の肖像に、大河ドラマ「龍馬伝」主演の福山雅治の写真が使われているようなものである。
このような、とんでもないのは単にマリ共和国だけではなく、トーゴ共和国、ザンビア共和国、ギニアビサウ共和国、ギニア共和国でも同様な「キュリー夫人」入りの切手が発行されている。
作家であり女優でもあるSusan さんは、米国をはじめ世界各国で何百回もこの演劇を演じており、インターネットでの画像の容易な入手が、安易な切手デザインへの利用につながった。これらアフリカ諸国による様々な分野の切手の発行が外貨獲得に役立っているとしても、肝心の Susan さんのもとにはその利益は渡らないであろう。
(出典)
http://www.itsokaytobesmart.com/post/79305213532/marie-curie-susan-marie-frontczac
http://www.storysmith.org/manya/
(本稿は、化学切手同好会の安部浩司氏からいただいた情報をもとに作製した。)
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