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「ナナフシ空を翔る」

 私の虫好きを知る遊び心旺盛な畏友玉尾皓平さんからのメールに「ナナフシ、空を翔る」と題する1枚の写真が添付されていたのは、あの東日本大震災が東北を襲う日のことであった。未だ大惨事など知らぬ私は、青い空に浮かぶナナフシ(竹節虫)に頭を悩ませていた。虫好きを自認はすれど、昔に甲虫類を集めていたことがあるというだけで、ナナフシの生態など知る由もない。生物の世界、特に昆虫の世界はとんでもないような不思議に驚かされることも多いが、流石に翅を持たないこのナナフシが空を飛ぶことは無さそうである。
  (1)上の木から落ちて来たところを偶然に見事に撮影
  (2)所長室の窓ガラスに居るところを室内から撮影
  (3)ガラス板に虫を載せて、木と空をバックに撮影
などと、あれこれ頭をひねった。
(1)はタイミングが良過ぎて非現実的、(3)は多忙な彼がそこまではやらないであろう!(独立行政法人 理化学研究所の基幹研究所の所長である)と思うと(2)が残る。まさか所長室の天井がガラス張りとも思えないので、果たしてナナフシは垂直な窓ガラスを歩けるのだろうか?

 結局、ギブアップのメールを送ったところ、さらに何点かの写真とともに次のような返信が来た。ペットよろしくナナフシがポケットや肩の上を歩いている。

 「・・・ナナフシ、楽しんでいただきありがとう。勿論、僕のペットのように一緒に遊んでくれたナナフシ君です。何と、垂直の窓ガラス上を平気で歩行するのですね!びっくりしました。足先の構造をしっかりと観察すべきだったと後悔しています。ヤモリのようにすいすい動き回りました。何枚か撮った写真の1枚です。こんな写真持っている人も少ないかもしれませんね。6年間理研和光キャンパスにいますが、既に3回、生きた元気なナナフシに出会っています。次回は足先の構造なども拡 大鏡などで調べましょう。・・・」

 香川県の出身で、四国の蝶なら飛んでいる姿を見ればほとんどすべて識別できるとのこと、私ごときが足許にも及ばない本格派の虫好きである。その玉尾さんが2011年の文化功労者に選ばれたことは、嬉しい限り! なお、以前に、多忙な中を私の処女出版「分子から見た私たち - やさしい生命化学」への書評を「化学」誌に書いていただいている。




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「コガネムシを3D眼鏡で見ると…」

豊田市矢作川左岸にて  H26. 08.04

 上の写真はマメコガネ(豆黄金)の交歓であるが、右側の写真は色が変で、緑色のはずの頭、前胸や三角形の小楯板が暗く写っている。前翅の褐色部分は、両方の写真で大きな差はない。実は、カメラのレンズの前に、3D映画の劇場用の眼鏡の左目用および右目用の偏光板を置いて撮影して得られたのが、それぞれ、左側および右側の写真である。この虫の体色の緑色は左円偏光なので、左円偏光を通す左目用の眼鏡を通り抜けるが、右円偏光を通す右目用の眼鏡を通り抜けることが出来ず、黒く見えてしまう。

 ハッチョウトンボ(八丁蜻蛉)を求めて訪れた名古屋の東山植物園の植物館でたまたま昆虫展が開かれていて、外国産の珍しい昆虫や美しい昆虫がたくさん展示されていた。コガネムシの仲間の標本を偏光眼鏡で見てみると、左目では奇麗な緑色が一層鮮やかなのに、右目では黒く見えるものがたくさん見つかった。体表の緑色が左円偏光になっているということであるが、緑色の昆虫なのに左右で見え方が変わらないものも結構あった。赤や茶色は偏光になっていないものが多いようで、大抵は眼鏡の左右で見え方に差はなかったが、ダイコクコガネ(大黒黄金)の仲間では前胸の赤い紋様が左では奇麗なのに右目では黒くなってしまうものがあった。(ウェブアルバム「3D眼鏡で見たコガネムシ」参照)

 日本のコガネムシでは、最初に紹介したマメコガネや、アオドウガネ(青銅鉦)、サクラコガネ(桜黄金)などの緑色が円偏光であるが、標本箱の写真のウグイスコガネ(メキシコ産)のような鮮やかな円偏光を示すものに出会ったことはない。美しい金属光沢のヤマトタマムシ(大和玉虫)は円偏光を示さず、円偏光はコガネムシの仲間に限られているようである。

 花の色は色素が光を吸収することによるものであるが、円偏光を示す甲虫の翅の色は色素の色ではなく分子の規則的な配列、積層構造による構造色である。構造色、円偏光については、例えば次のサイトを参照されたい。

⇒「構造色、円偏光」

 3D映画は、右目は右目用の画像、左目は左目用の画像を見ることによって立体感を得るもので、かつては平面偏光であったが最近のRealD方式では円偏光が用いられている。劇場での鑑賞用に相当する左右円偏光フィルターの眼鏡が市販されており、上記の写真はそれを用いて撮影したものである。

⇒「右円偏光は右らせんか左らせんか?」


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「オニヤンマを釣り上げた!」

 トンボを捕まえる方法の一つとして昔からあるのが「トンボ釣り」あるいは「ブリ」と呼ばれるユニークな採集方法である。2個の小石を糸でつないで空中に投げ上げ、ヤンマ等がキラキラ光る石を食べ物の虫と間違えて寄ってきて糸にひっかかり落ちてくるというものである。子供の頃に父親から話は聞いていて、以前から一度は自分の目で見てみたい、自分でやってみたいと思っていたが、先日、初めてその機会を得ることとなった。第20回トンボ釣り大会(関西トンボ談話会、鉢ヶ峯の自然を守る会主催:平成26年7月5日)への参加であるが、今年は運悪くトンボの集まりが悪くて、実際に捕れたのは指導者の方によるヤブヤンマ1頭だけであった。

 上記の伝統的なヤンマ釣り「ブリ」ではなく、そのトンボ釣り大会の3週間前、および、1週間前に、もっとユニークな方法で、それぞれオニヤンマの♂および♀を釣り上げた経験を紹介する。

H26.06.14                  H26.06.29

 もう夕暮れ近かったが、犬を散歩中に同行の娘が集水升(雨水升、正式名は街渠升)の金属格子の下にトンボの大きな目玉を発見! 手をつっこんでも捕まらないが、トクサの茎を差し伸べて救出に成功した。羽化したばかりのオニヤンマであった。格子の大きさからして自力での脱出は不可能であったが、羽化後で未だ飛び回る活発さが無かったことに加え、翅が軟らかかったことが幸いした。ウェブアルバム「トンボ救出」を参照されたい。

 さらに2週間後に、何と再び同様な経験をしたが、その記録はウェブアルバム「トンボ救出その2」にある。

 ここで、疑問となるのは、オニヤンマのヤゴは、いつ頃から囚われの身として金属格子の下で暮らしたいたのかである。市の上下水道課に問い合わせると、集水升に入るのはごく近所の水だけであり、私の知る限り、周辺にはオニヤンマの幼虫の生息域はなさそうである。オニヤンマは浅い流水の下の土に産卵し、孵化から羽化までのヤゴの時期は4年程度とのことである。2年前の24年8月の豪雨の時は、あたり一面水浸しとなったので、その時に遠くから流されて入り込んだとすれば、一応の説明はつく。しかし、2年もの間、どうやって生き延びたのか? 光が射し込んで水草は生えているので、小さな生き物が居ても不思議はないが、食欲旺盛なヤゴを養うだけの餌があり得たか疑わしい。トンボの達人にお伺いしたら、「トンボを含め昆虫を介して自然を観ていると、『どうして?』と考えさせられることが多くて困ります。生命の力強さには感心・感動するばかりです。」という奥の深いコメントが返ってきた。



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