旧 版(絶版)

残念ながら、出版社の廃業という想定外の事情で、絶版となってしまいました。「本書にこめた著者の思い」の大部分と、化学系出版物に掲載された本書についての書評の内容は、そのまま右の新版に当てはまります。

⇒ 正誤表

新 版(改訂版に相当)

左の旧版の改訂版に相当するもので、福島での原発事故を受けて、放射線や放射性同位体につての節やコラムを追加しました。しかし、電子書籍版を残して絶版となり、現在は理系向きの「生命化学基礎 − 分子から見た私たち」に生まれ変わっています。

⇒ 正誤表

新版について >

生命を知るための基礎化学
- 分子の目線でヒトをみる

川井正雄 著

全3編、19章、119節、98コラム
(B5版、164ページ)

2012年3月発行、丸善出版
定価 2200円(ISBN 978-4-621-08504-2 C3043)

 本書の特徴は、旧版と同様、楽しく学びながらユニークな視点で多彩な話題と知見を提供する豊富なコラムと,用語どうしの関連や簡単な語句の説明,使用例などを含む辞書としての活用も可能な独特の用語索引です.

⇒ 訂正/正誤表 ⇒ 用語索引(ユニークな工夫が特徴の索引です!) ⇒ 収録した化学切手の一覧

 ⇒ 著者のページ

旧版について >

分子から見た私たち
- やさしい生命化学 -

川井正雄 著

全3編、19章、117節、82コラム
(B5版、156ページ)

2010年4月発行、さんえい出版(2011年5月末で営業停止)
定価 1800円( ISBN978-4-915592-87-4)

 一般の教養書、文系学生の教科書、理系学生の入門書といった枠を超えた、新しいタイプの解説書です。さまざまな話題を提供する豊富なコラムな拾い読みするのも楽しい読み方のひとつです。上記の丸善出版からの新版のもととなった書物です。

⇒ 本書にこめた著者の思い   ⇒ 訂正/正誤表    ⇒ 本書についての書評

 豊富なコラムが特徴ですが、その1つが「<コラム6B>鏡は左右を反転するか??十字型構造式では」で、その内容の一部を次ぎに紹介します。

     ###########  鏡 は 左 右 を 反 転 す る か ?  ############
・・・ よく鏡は左右を反転すると言われますが、確かに、左前の服装は鏡の向こうでは右前になります。また、「さ」は「ち」に見え、「ち」は「さ」に見えます。では、なぜ鏡は、左右を反転させ、上下は反転させないのでしょう? 空間内では上下も左右も対等な筈で、ちょっと戸惑う問題です。鏡に写った自分の顔を見てみると、右の耳は鏡の右の方に写っているし、左の頬にホクロがあればそれは鏡の左側に写っています。鏡は上下も左右も反転させていません。逆転しているのは前後関係です。眼鏡をかけて壁を背にした私が写っているとすると、空間的な順番は、[壁]→[顔面]→[眼鏡]→鏡面→(眼鏡)→(顔面)→(壁)です。[ ]は鏡の前の本物で、( )は鏡の向こうの像を示していますが、実物と鏡像は前後関係が入れ替わっています。普通、私たちはその像を見て、左右が逆転した姿に相当すると判断しているのです。なお、「さ」と「ち」の関係も、左右の反転ではなく、表裏の反転で、「さ」を裏側から見れば「ち」と読めるという次第です。
     ########################################

 この「鏡と左右の反転」の話題について、本書の最後の追記のあとに、最終校正で次ぎのような「さらに追記」を書き加えました。

「さらに追記」
 「 <コラム6B> 鏡は左右を反転するか? -- 十字型構造式では」についての補足です。よく鏡は左右を反転すると言われますが、どうして鏡は上下を反転しないのでしょうか? このコラムでは、わずか数行で、明解な説明がなされています。でもこれは、かつて、ノーベル賞受賞前の朝永振一郎博士や当時の理研のメンバーが知恵を絞って答えの出なかった問題なんだよ!ということを、昔の同僚 唐木田健一博士が最終校正の真っ最中にメールで知らせてくれました。嬉しくなって、最後の余白をこの話題で埋めました。

⇒「さらに追記」についてのコメント「さらなる追記」

 なお、この話題については、後日、近畿化学協会の会誌「きんか(近畿化学工業界)」に、「鏡は左右を反転するか?」と題した一文を寄稿しました。


 

本書にこめた著者の思い  

  執筆の動機   コラムが豊富で楽しめる本   教科書らしくない本を目指して
  化学式は教養書にふさわしくない?   
ニセ科学の告発と化学悪者説への反論
  理系の学生にもお薦め   「私」の遊び心に満ちた本   大人のお勉強 ? 上級編
  価格について   装丁について   最後に

執筆の動機

 三十数年間、「分子で飯を食ってきた」私でしたが、理工系の大学を定年退職の後、文科系の学生諸君を対象として「分子からみた生命と身体」、「分子からみた生命と生活」という講義を担当することになりました。分子を主役として分子を見る姿勢を離れて、「人間学」という大テーマの中で、生命とくに私たち自身を主役として、その様々な営みを分子の働きとしてとらえるという作業は、私にとって未知の体験であり新鮮な感動を覚えました。さらに、化学式を使えば理解し合える、あるいは、わかったような気になってくれる人たちに囲まれて過ごしてきた私にとって、十分には化学を履修してこなかった学生諸君を対象に、板書をしたり配布テキストを作ったりする作業もまた、異文化体験の連続でした。これらの経験の中で、分子の視点からの「人間学」を、自分なりのオリジナルな組み立てでまとめ上げて世に出したいと思うに至りました。文科系の学生への講義経験が本書誕生のきっかけでしたが、読者として想定したのは化学を専門としない一般の方々です。当初、典型的な例として頭に描いていたのは、化学はほとんど勉強してこなかったが、健康や身体のことには十分な関心がある主婦層といったイメージでした。

コラムが豊富で楽しめる本

 楽しく読める、読んで楽しい!に重点を置いた本です。亀の甲はわからん! 化学記号は嫌い! という方々が、化学式の部分は無視して文だけを読み進んでいただいても、それなりに話の流れが把握できるように配慮しました。第1章から最終章に向かって、分子についての理解を少しずつ深めていく構成になっていますが、そんなことは無視して、例えば、最後の「寿命」の章から始めて「遺伝」、「健康と病気」、「神経と脳」・・・と逆向きに読んでいっても、読み物として困ったことも起こらず、それぞれの章をそれなりに楽しめる筈です。
 82点のコラムで、様々な角度から取り上げた様々な話題を提供しています。それぞれ、興味を惹きそうな表題を意識してつけました。先ずこれらのコラムの拾い読みから本書に親しむというのも如何でしょうか。

教科書らしくない本を目指して

 自分の講義を受ける学生が買うという以外には、すでに類書がある中で存在意義があまりなさそうな教科書をいくつも見てきました。そのような経験から、世に無い本、自分しか書けない類の本を目指し、色々な意味合いで教科書らしくない本を志しました。コラムが全体の約3分の1以上を占めるというのも、教科書の常識を外れています。教科書という言葉からは、きちんと全部読んで理解できないとダメな本(わからないのは「落ちこぼれ」!)といったニュアンスが感じられ、それは明らかに本書の意図に合いません。例えば「呼吸」の章には、高度な化学反応式も含まれ、これらは読み飛ばして進んでも、さほど不都合はありません。
 コラムの表題には週刊誌の車内広告を連想させるものもあり、本文が「です、ます体」であるなどは、教科書らしくないつもりです。しかし、出版社の方から「面白く読める本ですが、やはり教科書ですよ!」と言われてしまいました。

化学式は教養書にふさわしくない?

 「やさしい生命化学と書いてあるのに難しそうじゃないですか!」、「これは教科書で、私の読む本ではありません!」といった、私の思いに反するレスポンスに接し、考えてみました。そういえば、テレビの教養番組では分子構造はお目にかかりません。説明に化学式が出てこないことに、何かごまかされているような印象を持つ私でしたが、画面に化学式が出たらチャンネルを変えてしまう視聴者が多いということでしょうか。もちろん化学構造式が含まれる教養書はいくらでもありますが、一般の方々に親しみやすい本にするためには、化学式の使用を抑えるのがよいのかもしれません。
 しかし、私が書き始めた時の方針は、文科系学生のためのテキストにありがちな、表面的に重要事項を羅列的に並べるという安易なやり方を避け、重点を設定してごまかさないで書こうというものでした。どんどんとページ数が増えてしまうので、十分には方針を貫くことはできませんでしたが・・・。
 話が飛ぶみたいですが、私は以前に碁をやっていて、強くなれませんでした。棋譜を理解するだけの棋力はありませんが、今でも、新聞の囲碁欄を読みます。その際、棋譜は私にとって雰囲気作りの飾りみたいなものです。本論に戻って、亀の甲は苦手でも嫌わずに、雰囲気作りのカットとして横目で見ながら本文を読むのにも適した本です。

ニセ科学の告発と化学悪者説への反論

 講義資料の作成のためにインターネットによる情報収集を行なっていると、健康関係の話題では誤った非科学的な情報が堂々とまかり通っていることに驚かされました。授業では、文学部の学生に対して、化学の体系や専門的知識を伝えることを目的とするのではなく、合理的な考え方を身につけてもらうことに重点をおきました。本書でも、いくつかのコラムでは、科学の言葉を用いて科学的には根拠のないことを主張するニセ科学を取り上げています。(ちょっと横道にそれますが、私は交通安全のお守りの類を非難するつもりはありません。お守りの効能は科学と無縁であり、そのことを普通の人は承知しているからです。)
 私たち自身を含め、身の回りのすべては分子やその仲間、すなわち化学物質でできています。私たちは計り知れないほど人工化学物質の恩恵を受けて暮らしていますが、公害など、ごく一部の人工分子の悪行のため、化学という言葉に悪者のイメージがつきまとうようです。私たちの身体や生命の営みを、多様な役割をになう多種の分子の存在と機能という観点でとらえることにより、分子の世界に親しみを感じていただければと思います。

理系の学生にもお薦め

 化学についての素人さんを念頭に置いて書き進んだのですが、出来上がった本は、玄人筋に結構受けています。先に述べた「ごまかさず、きちんと書きたい」という姿勢が、適度には残っていたからでしょうか。
 「読んでいて面白く、ぐいぐいと化学の階段を上って行くような気がしました。化学を志す初心者に化学全体を俯瞰する講義が確かに必要ですが、大学ではその役目は高校の化学で済んでいると思っており、大学では高度にして詳細な、しかし無味乾燥な化学を教えることに力を注いでいるようで残念です。この本に期待するところ大です。」
 「文系学生に『分子からみた生命と身体,生活』に関する講義を4年間行った講義ノートをもとに本書を著したとのことだが、このような講義をきける学生は幸せでうらやましい限り。一般の人たちはもちろん、化学を専門とするしないにかかわらず学生や研究者にもぜひ一読を薦めたい。」(⇒ 書評のページ
 「文章が平易で読みやすいです。『分子の基礎』から『生命の営み』まで、知識を、ひとつひとつ積み重ねて理解させてゆく構成、なかなかのものです。少なくとも医学生の教養課程の必須読本としてすすめたいですね。」
・・・といったコメントを頂戴し、理系学生への入門書としての存在意義を認めていただいております。

「私」の遊び心に満ちた本

 「博学な貴君らしさが表れたユニークな化学の本です」という意味の読後感を述べてくれる方々が多いです。著者の遊び心をそのまま本書に吹き込んでいて、私の現在あるいは過去の趣味である、昆虫、切手、奇術、パズル、マラソンなどの話題が出てきます。タイトルには「私たち」の語がありますが、本文には川井正雄自身を示す単数形の「私」も10箇所ほど含まれています。運動能力に難のある私であったり、病院で処置を受ける私であったり、過去の研究を振り返る私であったりします。この点も、客観的な記述を基本とする教科書とは、大きく違っています。鏡の話題で出てくる「裏の透けた紙に『犬の散歩』をかなで書いて裏から読ませると・・・」などは、教科書では考えられない記述です。

大人のお勉強 ? 上級編

 巷では、「大人の塗り絵」を始めとして、漢字テストや計算ドリルなど、いわゆる脳トレ本が花盛りです。頭を使ったり、歌を唄ったり、体を動かしたりは、年齢を問わず、自然に内側から湧き起こる欲求でしょう。私も、数独やその上級ヴァージョンのキラー数独など大好きです。脳トレのブームの中で、塗り絵や書き取りの上級編として、「化学すなわち分子のお勉強は如何? 暗記や試験とは無縁の場では、昔は好きでなかったかもしれない化学も、なかなか楽しい世界ですよ!」とお薦めしたいのです。ウン十年前に高校で化学を履修された方々が、新しい生命化学に触れつつ、ノスタルジアとして分子の勉強をしていただくのに最適です。塗り絵や書き取りではなく、もっと上級の勉強にチャレンジしたいという方々にとって、本書が「上級編お勉強本」の嚆矢となることを期待したいです。

価格について

 「良心的な価格」、「何でこんなに安いの?」、「異例の価格帯」等々が、化学式が入った本を見慣れている方々からの反応です。私自身はお金儲けのために本を書いたわけではなく、少しでも多くの方に読んでいただきたいという強い思いがあって、出版社との交渉の結果まとまった価格です。最終的には私の無理を聞き入れてくださった、さんえい出版の厚意に応えるためにも、何とかたくさん売れてくれることを願っています。そのような思いで、「分子から見た生命化学」の知名度アップのために、このホームページを立ち上げました。
 知人にもと、一人で3冊、5冊、まれには10冊も追加注文してくださるケースがありますが、もし一般書に近い価格設定が出来ていなかったら、とてもそのようなことは起こり得なかったでしょう。

装丁について

 「表紙が気に入った! 書斎に並べておきたい」と言ってくれる友人もいます。私自身も、表紙カバーの出来映えに大満足で、さすがデザイナーさんはセンスが違う!と感心しています。ただし、水分子を用いるのは私の発案で、その並べ方などには、家族のアドバイス・協力が加わっています。青系統が好きですという私の好みを汲んでいただき、やさしい曲線とグラデーションで構成されています。表紙の裏の見返しは「るり色」で、本書の発行者、さんえい出版の飯岡さんの選定です。上梓の3か月前に生まれた川井家の初孫の名前にも相当し、これはたまたまですが、嬉しい一致です。

最後に

 結果として出来上がった本書は、「一般の教養書」「文系の教科書」「理系の入門書」といった枠を超えた生命化学の解説書です。読者それぞれが、自分に適した読み方をしていただければと思います。自宅に配達されてきた新聞の読み方は、家族それぞれでまったく異なっているように、本書にも各人各様の読み方があり得ます。最初から順に読み進むのが標準的な読み方でしょうが、難しいと思ったら読み飛ばす、目次を見て興味を惹いた表題から読む、コラムを順次読むなど、各人にふさわしい読み方でエンジョイしてください。私としては、それなりの時間をかけて準備し、執筆開始から脱稿までにも時間をかけ、十分に気合いを入れて仕上げた作品です。目からウロコの話など、必ずや、新しい視点、新しい発見を得ていただけると信じています。『「前書き」に励まされて、読ませて頂きました。コラムが主でしたけれど、頭に新しい風を入れた様な感覚でした』という文系主婦からのコメントに、我が意を得た思いです。それぞれに「新しい風」を感じ取っていただければ幸甚です。

⇒「本書にこめた著者の思い」の初めへ   ⇒ 著者のページ 



 書評のページ      

本書の書評(評者: 理化学研究所 基幹研究所 所長 玉尾皓平氏)が、月刊誌「化学」 (化学同人) に掲載されました。また、「有機合成化学協会誌」、「ファルマシア」にも書評が掲載されています。

「化学」2010年10月号

「化学の本だな」  BOOK REVIEW

分子から見た私たち - やさしい生命化学    川井正雄 著

B5版・170頁・定価1890円   (さんえい出版)

 

かゆいところを掻いてくれるような心地よい解説が魅力

「天然ゴムはイソプレンが重合してできたのではありません,炭素6個のメバロン酸から複雑な経路でできたものです」,「恐怖のジヒドロモノオキシドDHMO排出規制署名運動の真相!」,「鏡は上下も左右も反転させていません,前後関係が逆転しているのです」,「pH2の胃壁でピロリ菌が生きているのは尿素の酵素分解でできたアンモニアが周囲の塩酸を中和しているからです」,「酒びたりになると,肝臓のP450が多量につくられ,飲んだ薬が直ぐに処理されてしまって効かなくなります」.

 このような手品の種明かしを聞いているようなワクワク感と心地よさが満載の解説書である.それもそのはず,著者の川井正雄博士は京都大学の学生時代から手品の名手なのだ.さらに言葉遊びも得意,たとえば,次のような言葉遊びをわれわれ同級生に出題し楽しんだりする.「問題:次の文の空欄を埋めよ.1.『 』とまめの木.2.『 』とにおいの木」 これなどわかってしまうと,大笑い.本書の記述も,川井博士のテンポのよい無駄のない言葉でつづられていて,つい引き込まれてしまう.その本領がとくに発揮されているのが82に及ぶコラムである.冒頭の例は,おもにコラムからの抜粋である.

 本書の最大の特色は,第3編「生命の営み」に関する「視覚」「味覚と臭覚」「食事」「呼吸」「代謝」「神経と脳」「健康と病気」「遺伝」「寿命」の謎を分子レベルで理解できるように,第1編「分子の基礎」と第2編「生体分子」のわかりやすい解説が組み合わされている点であろう.従来の生命化学の教科書や参考書では,分子レベルでの詳しい機構に基づいて生命現象との関連を説明する,というスタイルがほとんどである.しかし本書では,生命現象のほうを主題として分子レベルでの解説を試みている点が従来にない取組みとなっている.基礎的なことから最新の知見まで,誠に幅広く,そして信頼性の高い情報満載の解説書である.巻末の1000件にも及ぶ語彙索引にも実に細やかな配慮が行き届いている.

 著者は,有機化学分野の第一線研究者として大学で研究・教育に携わってきた.定年退職後,文系学生に「分子からみた生命と身体,生活」に関する講義を4年間行った講義ノートをもとに本書を著したとのことだが,このような講義をきける学生は幸せでうらやましい限り.一般の人たちはもちろん,化学を化学を専門とするしないにかかわらず学生や研究者にもぜひ一読を薦めたい.化学を専門としてきた筆者も,今さら人に訊けない,という時のためにも,本書を座右の友としたい.

  評者:玉尾皓平 [(独)理化学研究所基幹研究所 ]

著者からのコメント

 パズルや言葉遊びは学生時代から大好きでした。しかし、この書評に登場する穴埋めパズル <『 』とまめの木/『 』とにおいの木> は、学生時代のエピソードではなく、2003年秋のことで、このパズルを解くのにかかった時間は?のアンケートを行いました。著者のページの「パズル十題の思い出とヒント」の問1のところを覧ください。


追加コメント(H22. 10. 07)

 炭素原子どうしを結合させて有機分子を合成するクロスカップリングという反応の開発で鈴木章、根岸英一の両氏がノーベル化学賞受賞という報せが昨日届きました。日本人として、そして、化学を専門としてきた私にとって、もちろん、大いに喜ばしいことです。しかし、クロスカップリングの先駆け、玉尾さんの名前が受賞者の名前に無かったことが残念です。実用化への貢献度が重視されたということのようで、1回の受賞者数は最大3名までという規則を恨めしく思います。翌朝、玉尾さんから届いた「周りの人たちが残念がってくれるのがありがたく、今はむしろすっきり爽やかな気分です・・・」とのコメントにほっとしております。でも、小人の私としては、「ノーベル賞学者が誉めている本」というキャッチフレーズが夢と消えたことが残念です。(再度、この分野が受賞対象となる可能性は高くはないでしょう。)

さらなる追加: 玉尾さんは平成23年度の文化功労者に選ばれました。)

⇒ 著者のページ   


「有機合成化学協会誌」2010年8月号

書 評

分子から見た私たち - やさしい生命化学 -

川井正雄 著  B5版・170頁 定価1800円+税 さんえい出版

 本書は大学の教養課程で使うことを想定して書かれた本である。特に、文系学生や医学部の学生など、有機化学の講義は教養課程以降では受けない学生、あるいは受験に化学を使わなかった学生向けに書かれたもので、有機化学と生命のかかわり、生化学との境界領域の内容が分かりやすく丁寧に書かれている。教科書としては安いほうなので、教科書として利用してもよいだろう。また、80以上もあるコラム欄が充実しているので、教員のネタ本としても有用である。大学の教養課程の講義を担当するとき、化学系の学生など、専門課程でそのあと何コマも有機化学を履修することが想定されている場合は比較的講義がやりやすい。混成軌道や命名法、分子の形やコンホメーション、いくつかの基本的な反応など解説すべき内容はおおむね決まっている。受験で化学を勉強していれば構造式に拒絶反応を示しこともない。しかし、将来、化学の専門家にならない学生の場合、もともとモチベーションも低く、厖大な有機化学の体系の触りの部分を教えたところで興味もわきにくい。そうした中、本書は化学の基礎から、脂質、糖質、タンパク質、核酸、視覚、味覚など有機化学と生命現象のかかわりがダイジェスト的に書かれており、教養や雑学としての有機化学に興味を持ってもらえるように工夫されている。化学系以外への学生の講義で頭を抱えている教員にお勧めの一冊である。 (徳永 信)

著者からのコメント

 非化学系学生への化学の授業での教科書として利用の推薦や、教員にとっての講義ネタ本としての有用性を評価していただき、評者に感謝します。ただ、「大学の教養課程で使うことを想定して書かれた本」との記述には異を唱えたいです。私自身は、著者のページの「本書にこめた著者の思い」に書きましたように、広く一般の方々に楽しんでいただけることを意識して書きました。(でも、出版社の方からは、「やはり教科書ですよ!」と言われています。)

「ファルマシア」2010年12月号

新 刊 紹 介

分子から見た私たち
やさしい生命化学

川井正雄 著

さんえい出版/B5版・168頁・定価1890円

 あらゆる物質や生命体の根源に、原子や分子の存在することは、ファルマシア読者の皆さんなら当たり前と思われるであろうが、化学についての勉強をあまりやってこられなかった方々にとっては、受け付けにくいところも多い。本書は、これら化学のバックグラウンドを持たない方々に向けて、分子化学や生命科学の楽しさを味わっていただけるよう著されたものである。最も身近な分子である水分子から始まり、原子、分子、イオンなど分子についての基礎、タンパク質、核酸など生命とかかわりの深い分子について、更には味覚、嗅覚、代謝、遺伝など生命現象と分子のかかわりについて、3編19章から構成され、章ごとに分かりやすく紹介されている。

 本書の見所は、具体的な事例を中心に論述を展開し、かつ挿絵をふんだんに用いることによる分かりやすい解説と、個々の項目において貴重な逸話を紹介したコラムが、ふんだんに散りばめられている点にある。これらのお陰で、難解な印象を抱きがちな話題であっても気軽に楽しく読み進み、理解を深めることができる。

 本書は、化学的な知識を余り持たない読者に向けて執筆されたものではあるが、むしろ専門領域に没頭しがちな我々にとっても、種々の生命現象を概観的に見直す機会を与えてくれる良い教科書になりそうである。

池田幸弘 Yukihiro IKEDA

著者からのコメント

 理解を容易にするために、1つ1つの図にも心を配りました。「挿絵をふんだんに」はそのような点も評価いただけたかと思っております。ただし、構造式を含め図は多用しましたが、「挿絵」と呼べるものは2点だけです。楽しいイラストが多くあるのかなと期待されそうですが・・・。

  ⇒「生命化学基礎 ? 分子から見た私たち」