⇒ パズル十題   ⇒ 英語なぞなぞ 

 ⇒「右円偏光は右らせんか左らせんか?」  ⇒ 右らせんと左らせん  ⇒ クズとフジの葛藤 
 ⇒ 高校化学教科書の今昔半世紀  ⇒ 鏡像異性体の名付け方  ⇒「10月23日は『化学の日』 
 ⇒『生命を知るための基礎化学 -- 分子の目線でヒトを見る』 



鏡は左右を反転するか?

 「分子から見た私たち - やさしい生命化学」の中には82のコラムがあって、その1つが、 <コラム6B> の「鏡は左右を反転するか? -- 十字型構造式では」です。「鏡はなぜ上下を逆転させずに左右を逆転するのか?」が、かつてノーベル賞受賞前の朝永振一郎博士や当時の理研のメンバーを悩ませた問題であったことを上梓の直前に知って、同書の最後で「追記 さらに追記」としてそのことに触れました。

 近畿化学協会の会誌「近畿化学工業界(通称:きんか)」に、この鏡問題について、以下のような4ページのエッセー(もどき)を書きました。
 なお、最後に添付しました著者プロフィール欄には、同書の宣伝や私の写真が入っています。パスポート写真のようなのもは不可、近況のわかるものということでしたので、なぜか実物より大分若く見えるマラソン写真にしました。(「市民ランナー」のページの、記録集の下にも何枚かマラソン写真を載せています。若く写ってるからです。)
  後に、この「きんか」誌への寄稿が、同誌の2011年度の「エディター賞」に選ばれました。

 なお、上記の書物は出版社の都合で絶版となり、改訂版に相当する「生命を知るための基礎化学 -- 分子の目線でヒトを見る」を丸善出版より発行して頂きましたが、「追記」や「さらに追記」は割愛しました。

 また、この鏡の話題に関して、ふだんから興味深い情報を提供してくださる松尾宏太郎さんから、クロック・アンチクロックと題された自作の時計を贈っていただきました。

 この鏡の話題は、俳句誌「春星」に寄稿のエッセー「鏡の中」でも取り上げました。


⇒「鏡は左右を反転するか?」  ⇒ 右らせんと左らせん  ⇒ クズとフジの葛藤 
⇒「右円偏光は右らせんか左らせんか?」  ⇒ 高校化学教科書の今昔半世紀
 ⇒「10月23日は『化学の日』  ⇒『生命を知るための基礎化学 -- 分子の目線でヒトを見る』



クロック・アンチクロック(松尾宏太郎さんの作品)


    

 左の写真の左側にあるのはただの目覚まし時計です。その右側の時計も文字盤が透明な点のほかには変わったところが無いように見えるかも知れませんが、実は秒針が左回りに動いています。秒針だけでなく分針も時針もすべて、反時計回りに進むのです。この変な時計は、私の「分子から見た私たち」の出版のお祝いとして松尾宏太郎さんから贈られてきたものです。「第7回手作り時計フォトコンテスト」(誠時社)の3等に入賞した松尾さん自作の時計の写真「クロック・アンチクロック」と同等品の時計として新しく作製されたとのことです。我が家の時計と並べて記念撮影しました。 

 右の写真も松尾さんの作品で、勝手に「ルドルフ・アンチルドルフ」と名づけてみました。大阪市立科学館のコロキウムで「鏡の向こうの世界」の演題で話した際、来聴された松尾さんよりいただいたものです。

 松尾さんからは以前より数々のユニークな情報を教えていただいており、例えば、細菌を慰霊する菌塚の存在は、松尾さんがアメリカ化学会の会員誌(Chemical Engineering News)に寄稿された文のコピーを送っていただいて初めて知りました。⇒「細菌のお墓」⇒「菌塚をご存知ですか?」


右らせんと左らせん

 大阪市立科学館で開催された中之島科学研究所のコロキウムで、「鏡の向こうの世界」の演題で話しましたが、内容は第1部「実物と虚像」、第2部「右らせんと左らせん」でした。その後、科学館の月刊誌「うちゅう」(2013年2月号)に下記の解説記事を書きました。






 上記の記事で、「かつては植物図鑑でもつる植物についての記述が混乱がしていました。」と書きましたが、その後、現在でも混乱は続いていることに気付かされました。このことに関する追記、補足にも相当する「クズとフジの葛藤」なるエッセー的解説を書いて、「Nature Study」誌(大阪市立自然史博物館)2013年8月号に掲載されました。

 人間関係における意見の衝突やいがみ合い、あるいは、個人の心の中での相容れない二つの感情の対立などを表す言葉が「葛藤」である。二つの漢字はともに木に巻き付くつる性の植物であり、容易にはほぐれない心のもつれを、これらの植物で示しているとされている。もともとは仏教用語で、正しい道理の理解を妨げ、仏道修行の邪魔になる煩悩が葛藤とのことである(木村,2005)。

 つるの巻き方は植物ごとに決まっていて、他の木や支柱などに巻き付く場合、一つの植物が両方の巻き方をする例はまれで、大抵は右巻きか左巻きのいずれかである。常にクズ(葛)のつるは右巻きであるのに対して、フジ(藤)のつるは逆の左巻きであって、両者は互いに反対向きのらせんを形成する。巻き方が同じものどうしが巻き付いている場合に比べて、逆巻きのつるが絡まり合った状態を解きほぐすのは遥かに困難である。(フジの近縁種のヤマフジ(山藤)は右巻きであって、これとの混同を避けるために左巻きの方はノダフジ(野田藤)とも呼ばれる。)

 つるが巻きつく向きについては、右らせんに相当するものを右巻き、左らせんに相当するものを左巻きとした。「右巻き」、「左巻き」は学術用語集植物学編(文部省・日本植物学会,1990)に収録されており、この用法は広く他の学術分野と共通する。しかし、見方によっては、右らせんのアサガオを左巻き、左回りとする解釈も可能である(川井,2013)。我が国では、かつてアサガオを左巻きとしていて、今でもまだそのような記述の書物が存在するので注意が必要である。ロープ、ワイヤ類では、右らせん、左らせんに相当する巻き方を、それぞれZ巻き(Z撚り)、S巻き(S撚り)と呼んでいる。らせんを横から見て手前の部分の見え方をローマ字のZやSに見立てるので、混乱は起こりにくい(図1)。歴史的経緯や、現在でも混乱が完全には解消されていない現状から、右、左の使用を避けてZ巻き、S巻きの使用を主張する向きもある。しかし、国際的、学際的に通用する右らせん、左らせんに対応する表記としての「右巻き、左巻き」(英語:「dextral、sinistral(形容詞)」)を用いるべきであろう。混乱、誤解を避けるためには、「右巻き(Z巻き)」、「左巻き(S巻き)」のような表記を用いるのがよいかもしれない。

図1:つる植物の右巻きと左巻き

 漢方に用いられる葛根湯は原料にクズの根が含まれているが、このように葛はクズというマメ科の植物種を示すのとは別に、つる性の植物の総称を意味する場合もあり、その場合には「かずら」と読む。つる植物には右巻きのものがかなり多いようであり、葛藤における葛は特定の種ではなくつる植物の総称であるとしても、葛が一般の右巻き植物を示し、藤がそれらとは逆の左巻きの代表例ととれば、先に述べた逆巻きのつるどうしの絡み合いという解釈は可能であろう。ただし、中国語では藤もつる植物一般を呼ぶ語として普通に用いられているようである。なお、漢字書きでは同じ文字を用いるツヅラフジ(葛藤)というツヅラフジ科の植物種が存在して、このつるは右巻きである。

 クズは葛まんじゅうや葛湯に用いられており、秋の七草の一つである。また、藤棚として観賞用にも植えられるフジは四月の花として花札に描かれている。つるの右巻き、左巻きにこだわる葛藤の解釈の妥当性に疑問は残るとしても、ともに我が国で古くから親しまれているこれらのマメ科植物が、つるの巻き方では葛藤する間柄であるということは興味深い。

<かわい まさお:本会会員・中之島科学研究所>

引用文献

 木村宣彰(2005).生活の中の仏教用語「葛藤」,文藝春秋 2005年8月,pp175.
 川井正雄(2013).右らせんと左らせん,うちゅう 29(11)20-21,大阪科学振興協会.
 文部省・日本植物学会(1990)学術用語集 植物学編(増訂版),丸善.






⇒ 目次  ⇒ 書評のページ  ⇒ 本書にこめた著者の思い  ⇒ 著者のページ

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  本書は出版社の都合で絶版となってしまいました。
  改訂版に相当するのが「生命を知るための基礎化学
  -- 分子の目線でヒトをみる」
(丸善出版)です。
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「追記」と「さらに追記」について

 本書では「あとがき」を書く予定はありませんでしたが、最終章「寿命 - 死は新しい生へ」の最終節「終わりに -- 寿命あれこれ」の最後に出来た余白に「追記」、そして「さらに追記」を書き加えました。

「追記」は、原稿を出版社に届けてから数日後に目にしたロイター通信の科学記事に関するものです。タバコを1本吸うごとに遺伝子の傷がひとつずつ増えていくというコメントが印象に残りました。かつての同僚 若山信行博士からのネット配信「本日の英語」で送信されてきたものです。

「さらに追記」は、「 <コラム6B> 鏡は左右を反転するか? -- 十字型構造式では」についての補足です。よく鏡は左右を反転すると言われますが、どうして鏡は上下を反転しないのでしょうか? このコラムでは、わずか数行で、明解な説明がなされています。でもこれは、かつて、ノーベル賞受賞前の朝永振一郎博士や当時の理研のメンバーが知恵を絞って答えの出なかった問題なんだよ!ということを、昔の同僚 唐木田健一博士が最終校正の真っ最中にメールで知らせてくれました。嬉しくなって、最後の余白をこの話題で埋めました。

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 以上は本書の最後に加えた2項についての紹介ですが、以下はその「さらに追記」への補足です。

「さらに追記」への「さらなる追記」

 鏡問題について、「私が、世の中で初めて、鏡の左右反転/上下反転についての謎を解いた!」として、誇大に感心してくださる読者がおられることを知り、そのような有難い(光栄じゃ?)、ないしは、有難迷惑(オレはそんな法螺吹きじゃないぞ!)な誤解を除くために、ここに「さらなる追記」を書きます。

 朝永先生たちが、「鏡にうつった世界は何も右と左が逆にならねばならぬ理由はないのではないか。たとえば上と下とが逆になったように見えてなぜ悪いのか」について、甲論乙バクの末、「一刀両断、ずばりとした説明があるのか」と悩まれたことは真実です。朝永振一郎著/江沢洋編「量子力学と私」(岩波文庫)の最初に収められている「鏡のなかの世界」に記されていて、もとは朝永先生が「数学セミナー」1963年1月号に書かれたエッセーです。

 私が、立体化学に関する講義プリントの準備中に、3次元分子を2次元に記述する十字型構造式(フィシャー投影式)を扱いながら、「なぜ鏡は左右を反転させて上下は反転させないの?」との疑問がわいてきました。ひらめいて疑問が解けるまでに、ひと晩かふた晩くらいは悩んだような気もしますが、あるいは、数時間もかからなかったかも知れません。頭と手足がある人間ではなく、本来は上も下も前も後もない幾何学図形の分子模型の鏡像を考えていたことが幸いして、余分な迷いが少なく、解決にたどりつけたのでしょう。十字式にからめて鏡問題の解説を記した私のテキスト冊子で残っている最も古いのが1997年のものです。

 以上が、私にとっての真実ないしは思い込みですが、この「追記への追記への追記」のポイントは、鏡問題を最初に解明したのは誰か?です。1964年発行のマーチン・ガードナーの著書(日本語訳「自然界における左と右」坪井・小島訳、紀伊國屋書店)には、鏡の反転に関する詳細で正しい記述があります。そして、その改版(日本語訳「新版 自然界における左と右」坪井・藤井・小島訳、紀伊國屋書店)には、この問題に関してのその後の反響が書き加えられています。それによると、ガードナーの説明を取り上げた学術論文3編のうち、1編はガードナーの説明が唯一の明快なものと認めていて、残りの2編はガードナーは誤っているとしているそうです。どうやら鏡問題の正しい理解が進んだのはたかだか40数年くらい前のことらしいです。数学者であり、アマチュアマジシャンでもあるガードナー氏が先駆けのようですが、彼よりも前に正解を得ていた人が何人か居たとしても不思議はありません。

 いずれにせよ、私が鏡問題を初めて解明したのでないことは確かです。上に書いたような状況を私が理解したのは、上梓の後のことです。「さらに追記」は、最終校正の時間の余裕のない時期に、「ノーベル賞受賞者が解けなかった問題を私が解いてた!」と、舞い上がりながら書いたものです。でも、何ら間違ったことは書いてなかったと、ほっとしています。実はあの<コラム6B>は、スペースの都合で割愛していたのもので、復活させて載せておいてよかった!と思っています。

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 後に、鏡問題については、近畿化学協会の会誌に、「鏡は左右を反転するか?」を書いて、同誌のエディター賞を受賞しました。

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